〜 あの子の瞳(め) 〜
2019年 2月
柏で父親からの虐待で亡くなった女の子
どんなにこわかったか。
どんなに痛かったかと可哀想でなりません。
とんでいって、抱きしめて、連れて帰ってきたかった。
と、ずっと思っています。
走り出しそうです。
児童相談所のやり方、学校のやり方、どれも生命を守ろうとする覚悟が感じられないのが現実です。
私の関わった(一時、里親になっていました)児童相談所の所長さんも、役所の戸籍係?土木課?「とりあえず、児童相談所の所長になってしまったオレ…」みたいな感じがどうしてもしていました。
幼稚園の中でもいろんなことがあります。
昔のこと、物静かな男の子が入園してきました。
お母さんはとてもきちんとした、キリッとした方でした。
藤田さんがやって下さっていたお母さん方から原稿を集めて「広場」というのを出していたのですが、そこへ書いて下さった文章の「私の大学4年生の夏…」みたいな美しいフレーズの文章を書く方。
まあ、お母さんの話じゃなくて。
その物静かな男の子…アハアハと笑ったり遊ぶようになるといいねと職員みんなで話をしていました。
私自身も気になって、よく、その子のそばで話しかけたり、一緒に座っていたり…。
でもなかなか心を開いてもらえず…。
お母さんに、毎日どんなふうにお家ですごしているのとか世間話しようよ!とか、かなりチャレンジしたのですが力不足…(トホホ)。
でもその子の物静かさが、どうにもこうにも、気になって気になって。
ついに、事務室に誘って、「ちょっと話さない?」と言ってみました。
長椅子に座ってリラックスしているように見えるその子に、
「楽しい…?」
からはじまって、いろいろ話を聞いてみようと試みた。
「ママはやさしい?」「お家で嫌なことない?」
ア〜ア。私はなにを疑ってなにを聞こうとしてるんだろう?
と、気落ちは千々に乱れる。
私「お母さん、怒ったりする?」
かなりの、かなりの時間が過ぎても、返事はありません。
じっと待ちました。
子「……うん」(あ〜、怒るんだ。あのママ)
私「たたいたりはしない?」
振り絞るように聞きました。
子「……」
その時、その子の瞳を私は思わず、のぞきこんでいました。
あの瞳、黒い、暗い、深い沼のような。
私は息を飲みました。
「たたいたりされる?」
返事を待たずに、私はきいてしまいました。
また沈黙…。 長い沈黙。
そして、それっきりその子はもういっさい、しゃべりませんでした。
お母さんには、勿論言えませんでした。
なんて力のない私なんだろう。
実態もほとんどわかりません。
夜、何度かその子の家の周りを歩いたりするアホな私。
ただ、毎日来てれば、ホッとする。
もう30年近くもたちます。
私がのぞいた、あの黒い沼のようなあの瞳が、
今も私をじっと見つめています。