〜 亀のゲンちゃん、里子に行く 〜
2021年 6月
幼稚園にずっといた亀のゲンちゃん。
年長さんにひきつがれながら、元気に暮らしておりました。
よく動き、よく食べ、かわいいゲンちゃん。
長い休みの間は、「いいよ」と言ってくださる家を巡回して可愛がってもらっていました。
4月に新しいすみれちゃんが入園してきて間もない時。
すみれ組の子が、ゲンちゃんと遊んでいて、なにがあったのか、投げ飛ばしてしまったのです。もちろん悪気があったわけではないのでしょうが、その子は職員達にこっぴどく怒られました。
それこそ亀の子のように首をすくめて反省しましたが、ケガをさせてしまったのです。
とりわけゲンちゃんを可愛がってくれていた(今は卒園した子の)ご家族が、とても心配してくれました。やはり病院に連れて行った方がいいと、連れて行ってくれました。治療が必要ということで、通院もしてくれました。
幼稚園ではというと、ゲンちゃん、ごはんを食べなくなりました。
以前はこれでもかと食べ続ける元気な元気な亀さんだったのに…。
職員室では、
「Aチャン(かわいがってくれて、よく預かってくれていた子)の家の方がいいのかしら、水槽もあたらしいのがあって、素敵な環境みたいよね。Aチャンのお家では、よく食べるらしいよね」
「うるさいのには慣れてるはずよね」
「投げられたのがきっかけで、嫌になっちゃったのかなぁ」
なにせ、何も食べないことが心配で、心配で…。
Aチャンから、「もしアレなら、家でひきとりましょうか?」とのありがたいお話も。
もし、里子に出すなら、子ども達になんと言うかが問題。ああでもない。こうでもないと話し合いました。
えさを変えたり、水槽の場所を変えたりしても、とにかく一切、食べてくれません。
心配になり、根負けした私達は、子ども達に事情を話して、Aチャンちのゲンちゃんとして、育ててもらうことにしました。
食べない食べないといっても、お腹が空けば食べるはず!と思っていた私です。でも、10日も食べない。ハンガーストライキか!
亀は万年生きるんじゃなかったっけ?
だったら、私なんかよりずっと長く生きるんだから …とぐずぐずと思い悩みました。
そして、主任きみちんは、我が娘を西小岩幼稚園を卒園させた人です。
そのときの夏まつりのときに、なんということか夜店屋さんのくじびきの時に、娘が亀を当ててきたという経験があります。
「誰だ?生き物を賞品にしたヤツは!?」と、記憶の定かでない私は叫びます。もう昔のことです。
特別賞をあてたきみちんの娘さんは「やったぁ〜」と大喜びで家につれ帰り、今も元気にきみちん家で育っています。
私は、懐疑的です。
「でも…亀さんだよ。Aチャンちのほうがいい! って思ってるのかなぁ」とぼやきます。すると主任きみちんがおごそかに言いました。「…たみこさん、亀は、いろんなことわかるんです! 周りの状況もよくわかり、話だって聞いて、みんなわかってるんです。」
ゲンちゃん、Aチャンちでたくさん食べて、おだやかに楽しく暮らしているんだね。よかった。Aチャンちのみなさん、ありがとう。よろしくお願いします。
幸せな、ゲンちゃんです。